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大阪高等裁判所 昭和58年(ネ)1443号 判決 1983年11月30日

控訴人 株式会社東邦相互銀行

右代表者代表取締役 安倍茂春

右訴訟代理人弁護士 大白勝

同 後藤由二

同 上谷佳宏

被控訴人 西山隆

右訴訟代理人弁護士 田辺善彦

主文

一  原判決中控訴人の敗訴部分を取消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は「一 本件控訴を棄却する。二 控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張関係は、次に訂正・付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用し、証拠関係は、原審における本件記録中の証拠目録記載のとおりであるから、これを引用する。

(訂正)

原判決三枚目表七行目の「用紙を」を「用紙が」と、四枚目表二行目の「継続した」を「行った」とそれぞれ改める。

(控訴人の主張)

控訴人銀行(以下「銀行」ともいう。)が取引先との当座勘定取引につき、取引先に手形用紙・小切手用紙(以下、一括して「手形用紙」という。)を交付する場合には、実費を徴収する(被控訴人の当座勘定規定八条四項)ので、手形用紙の所有権は取引先にあるが、当座勘定取引が終了した場合には、右当座勘定規定二四条二項が未使用の手形用紙を直ちに銀行に返却し当座勘定の決済を完了すべきことを規定しているから、当座勘定取引契約に基づき、取引先は銀行に対し未使用手形用紙の返還義務を負い、銀行は取引先に対し未使用手形用紙の返還請求権を有するものであるところ、右返還請求権は、債権的請求権であるから、その行使方法や効果についても自ずと制限があることは明らかであり、また、あくまで銀行の権利であるから、故意に第三者の権利を害するなど特段の事由のない限り、その行使の時期、方法や程度は銀行の自由な裁量に属する事柄であって、第三者から問責されるいわれはない。

(被控訴人の主張)

控訴人の右主張は争う。

理由

一  請求原因1の事実についての当裁判所の判断は、原判決理由一(原判決六枚目表九行目から七枚目表末行まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

二  そこで、控訴人の不法行為の成否について検討する。

1  控訴人が昭和五二年一〇月一三日以降銀河との間で当座勘定取引を行ってきたところ、昭和五三年六月八日右取引契約を解約した(以下「本件解約」という。)ことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によると、控訴人の担当者である井上英雄は、本件解約後、銀河の代表者である塩崎晴司らから強い要請を受け、かつ、現実に決済資金の送金を受けたので、やむなく上司の決裁を得たうえ、銀河振出手形の決済を別表記載の範囲で行ったことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、被控訴人主張のような控訴人担当者の不法行為を認めることはできず、他に被控訴人の右主張を認めるに足りる証拠はない。

2  次に、前記認定のとおり別紙貸金一覧表記載の5、8の貸金について振出された各約束手形は本件解約後に振出されたものであるところ、被控訴人は控訴人には本件解約後当座勘定取引契約に基づき控訴人が交付した銀河の未使用手形用紙を回収し又はその悪用を防止すべき義務があるのにこれを怠った過失がある旨主張するので、この点について判断する。

《証拠省略》によると、控訴人の当座勘定規定二四条二項は、当座勘定取引が終了した場合には、未使用の手形用紙は直ちに当店(控訴人)へ返却するとともに、当座勘定の決済を完了してください、と定めていることが認められるから、控訴人が取引先との当座勘定取引契約を解約した場合において、取引先に交付された手形用紙の未使用分については、当座勘定取引契約に基づき、取引先が控訴人に対しその返還義務を負い、控訴人が取引先に対しその返還請求権を有することが明らかであるが、右返還請求権を行使するかどうかは、故意に第三者の権利を害するなどの特段の事情のない限り、控訴人が自由に決定し得るものというべきである。

もっとも、手形に対する一般的信用を考えると、銀行は、取引先との当座勘定取引契約を解約した場合において、取引先に交付した手形用紙の未使用分があるときは、その儘放置することなく、右返還請求権に基づき、取引先に対し書面又は口頭で未使用手形用紙を速かに返還すべき旨催告するなどその回収を図るのが相当ではあるが、被控訴人主張のような銀行の取引先の未使用手形用紙に対する回収ないし悪用防止義務については、何らの法的根拠もないから、到底これを認めることができない。

そうすると、控訴人に取引先・銀河の未使用手形用紙に対する回収ないし悪用防止義務のあることを前提とする被控訴人の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由のないことが明らかである。

三  以上の次第で、被控訴人の請求はすべて失当として棄却すべきところ、これと趣旨を異にする原判決は相当ではなく、本件控訴は理由があるから、民訴法三八六条により原判決中控訴人の敗訴部分を取消して被控訴人の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 仲西二郎 裁判官 長谷喜仁 下村浩蔵)

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